じょんしゅう日記

映画や本の感想が中心

最近借りた本、買った本など

革命的群衆 (岩波文庫)

革命的群衆 (岩波文庫)

ジョルジュ・ルフェーヴルによる1932年の報告のテクスト。
フランス革命期、例えば散歩をしたり良い天気を楽しんだりするために集まっていたような人々が革命的な群衆へと変容していくプロセスを考えるという話。
ルフェーヴルは人間の群衆(foule)を動物の群れと同一視するル・ボン的群衆論と、群衆を自律的な個々人の集まりとしか捉えない革命史家的群衆論を批判した上で、
その中間の道を「集合心性」をキーに進んでゆく。
ルフェーヴルは群衆を「集合体」(agrégat simple)、「半意識的集合体」(agrégat semi-volontaire)、「結集体」(rassemblement)の3つに区分している。
これら3つは必ずしも明確には切り分けられないが、
「集合体」としては電車が通った後の駅周辺に出現する集団を例に挙げている。
「半意識的集合体」は例えば農作業や、ミサからの寄合い、寄合いからの飲み会などを挙げている。
この「集合体」や「半意識的集合体」が、「結集体」すなわち革命的群衆へと変容するプロセスを描くのだが、
そのとき重要となるのは集合心性(mentalité collective)だという。
集合心性というものが「結集体」以前の集合体において形成されていたために、そこに革命的群衆が生まれていくのである。
その、集合心性は、個々人の意識にまずは生まれるが、その上で心的相互作用(action intermentale)を通じて形成される。
心的相互作用は語らい(conversation)、例えば「夜の集い」(veillée)における語らいなどとしてあり、これらを通じて集合心性は形成され強化されるというのである。
非常に短い論考(文庫で本文60ページくらい)なのですぐに読める。


Robot Ghosts and Wired Dreams: Japanese Science Fiction from Origins to Anime

Robot Ghosts and Wired Dreams: Japanese Science Fiction from Origins to Anime

  • 作者: Christopher Bolton,Istvan Csicsery-ronay Jr.,Takayuki Tatsumi
  • 出版社/メーカー: Univ of Minnesota Pr
  • 発売日: 2007/11/15
  • メディア: ペーパーバック
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日本のSFをめぐる論文集。巽孝之氏が編者の1人である。
前半の第1部が文学、後半第2部がアニメについて。
編者でもあるボルターのパトレイバー論などを読みたくて。
ちなみに日本人の論考もはいっていて、小谷真理氏の女性によるSFに関する論考や、
東浩紀氏の「ハムレットとしてのSF」(河出文庫の『郵便的不安たちβ』所収)の英訳などがある。


小鳥はなぜ歌うのか (岩波新書)

小鳥はなぜ歌うのか (岩波新書)

動物行動学が専門の著者による鳥の歌の研究。
鳥の歌の種類や鳴き方からはじまり、鳴くのはなぜかという問いに答えようとする実験や結果について、
また環境と鳥の歌との関係、修得するプロセスなどを論じてゆく。最後は鳥の歌研究から人間の心理を考えるというものだ。
ここに書かれた研究結果が専門分野で現在どの程度通用するものなのかは知らないが、話として結構面白い。
例えば、縄張りを示すための鳥の歌が何故複数必要なのかという点については、
クレーブスによるBeau Geste(ボー・ジェスト)説というのがあるらしい。
ボー・ジェスト』というのはP.C.レンの小説であり、外国人部隊でのジェスト3兄弟のお話なのだが、
その中に次のような場面がある。
砂漠で敵に取り囲まれたとき、自分たちの周囲に、軍服と兜を身につけさせた案山子を立て、
味方の兵隊が大勢いると相手に思わせようとするのである。
鳥の歌が複数あるのもそれと同じであり、複数の歌を流すことで、数を多く見せ、縄張りを防衛する役目を果たすのだという。
なるほど面白い説です。
ところで、読んでいて用語に若干戸惑った。
この本では、シラブルを「句」と呼び、フレーズを「節」と呼んでいるのだが、
音楽をやっているとシラブルが音節、フレーズが楽句なので、
どうしても反射的にこの本とは逆の当てはめ方をしてしまう。
とはいえ、文化論など別の分野に関わるものにとっても示唆に富むであろう、
興味深い本でした。


現代建築に関する16章 〈空間、時間、そして世界〉 (講談社現代新書)

現代建築に関する16章 〈空間、時間、そして世界〉 (講談社現代新書)

「形態と機能」、「斜線とスロープ」、「全体/部分」、「レム・コールハース」、
「身体」、「歴史と記憶」、「場所と景観」など、
16のテーマのもと建築について建築物を例としながら考える。
それぞれの章で、テーマに関わる重要な概念を用いて論じていて勉強になる。
例えば全体/部分の章ではブリコラージュ、パタン・ランゲージ、伽藍とバザールが、
コールハースの章ならマンハッタニズム、ビッグネス、ジャンク・スペースといった具合である。
おそらく入門書としてかなり良い本で、これを読むと、触れられている様々な文献にも目を通したくなるだろうと思う。
例えば僕は青木淳の『原っぱと遊園地』、吉村靖孝編の『超合法建築図鑑』、ケネス・フランプトン『現代建築史』などが特に読みたいなと思った。
五十嵐氏の紹介によると、
吉村編『超合法建築図鑑』というのは、建築法規が生み出す風景を観察・報告したものらしく興味深い。
例えば、表参道のプラダの形態は斜線制限によって決まっている。法律が生み出す風景について知る良い文献となりそうだ。
また、フランプトン『現代建築史』は、視覚偏重のポストモダンヴェンチューリとか)を批判して、手触りとか響いている音とか、
五感を喚起させる経験としての空間を重視していると。フランプトンの論考はハル・フォスターの『反美学』にも入っているのだが単著も詳しく読んでみたい。